2011年の為替相場の焦点は中東の情勢不安

今後の数カ月間、外国為替市場の参加者は、@中東の政情不安、Aわが国の大震災、B欧州の財政危機(ユーロ危機)、C中国のインフレの4片からなる複雑なジグソー・パズルを組み解かねばならない。結論を先に述べれば、筆者は、円安が進行する可能性大とみている。

中東の政情不安とドル相場

不安定な中東情勢は資源価格の高騰を招き、ドルにネガティブな影響を与える。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和第2弾(QE2)解除の観測には注意を要する。

米国のエネルギー効率はG3中最悪

新興経済諸国の高成長、世界的な過剰流動性と中東の政情不安から資源価格が高騰しているが、その為替インプリケーションはドル安である。なぜなら、原油を筆頭とするエネルギー価格上昇の最大の敗者は、米国と考えられるからだ。

 

消費者物価で実質化した原油価格は、現在、すでに153(1982-84年を100とする指数)と、1979年の第二次石油危機時とほぼ同水準まで上昇している。したがって、景気に与えるネガティブな影響は無視し得ないが、それは、日米欧のなかで、エネルギー効率が最悪の米国により大きく出る公算が高い。

 

2009年統計を用いて日米欧のエネルギー効率を試算すると、1ドル相当のGDPを算出るために要する一次エネルギー(石油換算)は、欧州の91キログラム、日本の92キログラムに対して、米国は155キログラムとなっている。さらに民主化ドミノが、中東随一の親米産油国であるサウジアラビアに波及した場合、ドルにとって極めてネガティブなセンチメントが広がるであろう。

 

しかしながら、2011年3月25日にフィラデルフィア連邦準備銀行のプロッサー総裁が、「遠くない将来に現在の大幅な緩和政策から引き締めを開始する必要がある」と述べるなど、今後、タカ派の連銀高官による発言などが、金融市場におけるFRBのQE2解除観測を助長するリスクには留意が必要である。特に4月26〜27日、6月21〜22日の連邦公開市場委員(FOMC)会合前には要注意であろう。

東日本大震災と円相場

3月11日に発生した東日本大震災は、中長期的に大幅な円安をもたらす公算が高い。

 

混乱期は円高、復興期は円安に

 

ドル円相場は、震災による混乱を受けて、3月17日、これまでの史上最安値(1ドル=79円75銭)を更新し、76円25銭まで上昇した(図表3)。その後、G7の通貨当局による協調介入によって、ドルは81円台へ反発している。しかしながら、引き続き混乱期には、Risk Aversion (リスク忌避)から、ドルが再び70円台に下落する可能性を排除することはできない。

 

しかし、為替市場が、当初の混乱期から、それに続く復興期を展望するようになれば、円は大幅に下落する公算が高い。それは、膨大な復興需要によって、2010年第4四半期において20兆円にのばった需給ギャップが解消され、日本経済は低成長・デフレ・円高の悪循環から、高成長・インフレ・円安の好循環に転換する可能性が大きいからである。

 

膨大な政府債務によって、復興需要のファイナンスに対する懸念が出ているが、それは妥当ではない。子ども手当などの財源を復興に振り向けるといった予算の組み替えによって、財政赤字の拡大はある程度抑制されるうえ、最終的には拡大した財政赤字は、国内の貯蓄余剰によって、十分に吸収可能であるためである。

 

復興需要によるデフレ・ギャップの解消は次のような経路で円安を招来すると考えられる。

 

@復興需要はすべて国内需要であるため、復興期の高成長は、内需拡大による経常収支黒字の大幅な縮小を伴うことになる。 2010年の経常収支黒字は17兆円にのぽるが、復興需要と震災による生産能力の減少によって、復興期には、経常収支が赤字に転じる可能性もある。

 

A復興需要による好景気は、国内投資家のRisk Appetite (リスク選好)の増大を通じて、対外投資を助長する可能性が高い。 2010年12月末におけるわが国の個人投資家の対外投資比率は2.7%と著しく低く、対外投資余力は十分に残されている。

 

Bデフレ・ギャップ解消によるインフレ率の上昇は、購買力平価や実質金利低下の観点から円か下落すると考えられる。

 

C一部で報じられたように、10兆円を超える「復興国債」を日本銀行が引き受けた場合、復興期における円金利の上昇が先送りされるため、円安の確度は一段と高まると考えられる。

 

C以降は次ページに続く・・・

 

円の独歩安トレンド明確に。年末に向けて1ドル90円台へ上昇

以上、4片のジグソー・パズルを組み解くと次のような結論となろう。短期的には、中東情勢の混乱、わが国の震災による先行き不透明感から、ドル円相場にはダウンサイド・リスクが残る。ただ、円売り介入に対する警戒感も強く、欧州では、利上げ観測と財政懸念が交錯するため、主要3通貨に明確なトレントを求めるべきではない。あえて言えば、中国の引き締め政策を受けた中国元買いが望ましい。しかし、わが国経済が震災被害からの復興期に入り、中国経済の減速が明確になり、加えて、米国の量的緩和の解除が現実味を帯びてくれば、円の独歩安トレンドが明確となる可能が高い。ドル円相場は、年末に向けて90円台へ上昇するとみている。